読書「エミリの小さな包丁 森沢明夫」

プロローグが凄い。
私には武器がある。研ぎ澄まされた出刃包丁だ。ショルダーバッグのなかにこっそりと忍ばせて、「あの人」が暮らしている街を歩いているのだ。という緊迫感のある出だし。
各章ごとに美味しそうな魚料理が登場するので、それを楽しみに読み進めることができる。1行の文字数が少ないため、ページ数の割に一気に読了できる。
25歳で都会暮らしをしていた主人公のエミリ。職場の年上の既婚男性との失恋をきっかけに、仕事もお金も失った。
両親は小さい時に離婚し、母に育てられたが、今は母に頼ることもできない。そこで、10年以上連絡を取っていなかった祖父の家へと転がり込んだ。
第一章 猫になりたい カサゴの味噌汁
出だし「わたしには武器がない。」?プロローグと真逆で、どうなってるんだって感じで一気に引き込まれる。
漁港近くの祖父宅に身を寄せ、太陽の登り沈みに合わせて寝起きする。
長く会っていない祖父への遠慮の気持ちをほどいてくれたのはおじいちゃんの手料理だった。
晩ご飯の為に祖父と釣りに行ったエミリ。カサゴが順調に釣れて、もっと釣ろうと言うエミリに祖父は「晩ご飯の分だけで十分」と言う。祖父はカサゴの味噌汁とお刺身を調理してくれた。
しばらく経って家事を手伝うようになったエミリに祖父は出刃包丁を渡した。ずっと研がれてきた出刃包丁は小さくなっていた。
日々包丁を研ぎ、祖父から料理を学ぶ。鯖の炊かず飯、母が好きだった鰆のマーマレード焼き。
青く広がる海から採れる魚介類と、庭で採れるシソなどの野菜。近所のフミさんからもらう野菜や漁師の心平さんからもらう魚などで、食べる分だけ作る。
心が癒えてきて東京に帰ることを決意したエミリに祖父が持たせたのは出刃包丁だった。出刃包丁に添えられたメモには、その包丁が母から祖父へのプレゼントだったことが記されていた。
祖父から教わったレシピと包丁という武器を持ったエミリは母に会いにいくのか。
心温まるストーリーと美味しそうな料理。おすすめの1冊です。