<Q&Aシリーズ>小手術に最適な抗菌薬(抗生剤)は?

美容外科で行われる小手術での最適な抗菌薬投与に関して、

「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン

http://www.gekakansen.jp/201508_guideline.pdf

を参考に考察してみました。

 

 

美容外科で行われる手術とは?

美容外科で多く行われる手術は以下のようなものです。

・二重埋没、二重切開

・目の下のクマ取り

・糸リフト

・豊胸(ヒアルロン酸、シリコンバッグ)

・婦人科形成(小陰唇縮小、大陰唇切除)

・目尻切開、目頭切開

脂肪吸引

・切開リフト

多くは30分~2時間で終わる手術です。

 

一部の施設では、長時間に及ぶ骨切りなどもありますが、実施しているクリニックは限られるので、今回の考察からは除きます。

 

見た目の美容に関わる手術だけに、体表の手術が多いです。お腹の中などの内臓までは触りません。また、原則感染していない清潔な皮膚の手術です。

 

推奨度

薬剤の効果を確認するためには、実際にヒトに薬剤を投与してどれだけ効果があったのかを確認する臨床試験、臨床研究が行われます。

その結果、どの程度その薬剤や投与法が推奨されるか、段階的に推奨度が決められます。以下に「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」での推奨度を引用します。

(引用:http://www.gekakansen.jp/201508_guideline.pdf

A~C1であれば勧められる。

Ⅰ、Ⅱであればしっかりと根拠があると考えられます。

 

創の清潔度から見た抗菌薬の必要性

創の清潔度別に抗菌薬の推奨度が変わります。

ガイドラインでの創の分類を引用します。

これに当てはめると、ほとんどの美容小手術はクラスⅠとなります。

婦人科形成や包茎手術、バッカルファット除去などはクラスⅡになります。

 

ガイドラインによれば、

クラスⅠ:一部で抗菌薬の使用は不要である。
クラスⅡ:予防抗菌薬の適応とする (A-Ⅰ)。 

となっています。

 

抗菌薬の種類について

抗菌薬を選ぶ際には、どんな細菌を対象にするかが重要になります。

ガイドラインでは、「原則として手術部位の常在細菌叢に抗菌活性を有する薬剤選択を行い (A-Ⅰ)、術後感染の原因細菌をターゲットにしない」 とされています。

手術部位に合わせた薬剤選択の表を引用します。

ほとんどの美容手術は、表の一般外科にあてはまるため、投与するのであれば、CEZ、ABPC/SBTになります。

ただし、創クラスⅠなので、そもそも抗菌薬の予防投与が不要と考えられます。

基礎疾患で免疫力が十分でない場合などに予防投与を検討することになります。

 

婦人科形成や包茎手術、バッカルファット除去では創クラスⅡで予防抗菌薬投与の適応となり、嫌気性菌なども対象菌になるため、CMZやABPC/SBTなどを投与すべきとされています。

 

抗菌薬の投与方法とタイミングについて

抗菌薬の投与方法は、点滴投与一択になっています。これは、内服薬では消化管での吸収速度や吸収率の影響を受けますが、点滴ではその影響を受けずに確実に有効な血中濃度を保つことができるからと考えられます。

投与のタイミングは、「手術が始まる時点で、十分な殺菌作用を示す血中濃度、組織中濃度が必要であり、切開の 1 時間前以内に投与を開始する(A-Ⅱ)」となっています。

 

βラクタム系薬剤にアレルギーのあるとき

これまでみてきたCEZ、ABPC/SBTはいずれもβラクタム系の薬剤です。βラクタム系薬剤は、日常的に使われることが多く、それだけアレルギーを持つ方が多いです。

1つのβラクタム系薬剤でアレルギーが起こる場合には、他のβラクタム系薬剤でもアレルギーが起こることが多く、他の系統の薬剤に変更することが望ましいとされています。

ガイドラインでは薬剤の選択として、次のように推奨されています。

グラム陽性菌のみをターゲットとする手術:CLDM または VCM
グラム陽性菌グラム陰性菌、嫌気性菌を考慮する手術:アミノグリコシド系薬または
フルオロキノロン系薬(例:LVFX)に MNZ(下部消化管、婦人科手術)または CLDM(口腔・咽頭手術)の併用。

 

最後に

今回は、少し専門的な内容になりました。

抗菌薬は以前は適応を考えずに気軽に処方されていた名残りもあり、今でも不要な処方がなされていることが少なくありません。

一方で、必要な方に処方されていなかったり、効果のない薬剤が選ばれていることも多くあります。

ガイドラインなど便利なツールが増えてきたので、適切な処方が増えることを望みます。